大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和45年(むのイ)736号 決定

被疑者 中西僚一

決  定

(被疑者氏名略)

右の者に対する傷害、凶器準備集合、公務執行妨害被疑事件について、その弁護人となろうとする弁護士中山雄介から、接見拒否処分に対する準抗告の申立があったので、つぎのとおり決定する。

主文

一、東京地方検察庁検察官八巻正雄が、昭和四五年四月一四日大井警察署に赴いた申立人に対しなした、東京地方検察庁で検察官の接見指定書を受取りこれを持参しないかぎり申立人と被疑者の接見を拒否する処分はこれを取消す。

二、申立人その余の申立を棄却する。

理由

一、本件申立の趣旨、理由は準抗告申立書(略)記載の通りであるから、これを引用する。

二、当裁判所の事実調の結果による認定事実の要旨

1  申立人は昭和四五年四月一三日大井警察署に予め電話連絡のうえ、翌一四日、同署に赴き被疑者との接見を求めたところ、同署司法警察員は八巻検事の捜査のため必要があるから接見は指定によるものとし、その接見の指定は検察庁において作成交付する具体的指定書によって行なう趣旨の指示にもとづき、同検事の具体的指定書を持参しないかぎり接見を拒否する。具体的指定書は検察庁に出向いて受取られたい旨を述べ、申立人は同日午後一時四〇分ころから同四時ころまで種々要求したが遂に接見は許されず、また接見の具体的指定もうけなかった。

2  同月一四日夕刻および一五日に八巻検事は電話で申立人に対し、一五日午後に接見できる具体的指定書をさしあげるからとりにきてくれ、この指定書を持参しないかぎり監獄の長が接見を拒否することになる旨を述べ、更に同一五日同検事は東京地方検察庁にきた申立人に対し希望するならばすぐ具体的指定書を交付する態度で話をし、指定書を持参しなければ監獄の長が接見を拒否することになる旨述べた。

3  四月一四日および同月一五日当時は検察官の判断によれば、勾留四日目および五日目で警察官が被疑者の取調を継続して行つており、共犯者や事実関係の核心にふれる捜査段階にあった。

三、当裁判所の判断の要旨

1、(一)、刑訴法三九条三項の捜査のための必要性は捜査機関の裁量判断によるのが原則であり、本件について八巻検事が捜査のための必要性について、その裁量判断を著しく誤つており、四月一四日および一五日は捜査のための必要は全くなかったということはできない。

(二) しかし被疑者と弁護人となろうとする者との接見は本来自由であつて、検察官らは捜査のため必要があるときは、例外的に接見の日時、場所、時間について指定することができるにすぎないから、具体的指定書を持参しないかぎり接見を拒否できるというものでなく、速かな具体的指定を与えてはじめて自由な接見を制限できるものと解すべきである。

(三) 本件において弁護人となろうとする申立人が被疑者の勾留されている大井署に行き接見を求めたとき、連絡をうけた八巻検事は電話で、自らまたは検察事務官、司法警察員らを通じて申立人に対し、捜査の必要と接見の必要とを調節した具体的指定を与えるとともに、その指定を司法警察員らに通知して指定による接見をさせるのが相当であり、このようにしても必然的に指定内容についての過誤ならびに紛争が生じ円滑確実な接見の実行ができなくなるおそれがあるものとは思われない。そして接見の指定は具体的指定書によつて行なうとして、折角大井署に臨んで接見を求めている申立人に、検察庁まで指定書と受取りにくることを求め、この指定書を大井署に持参してゆかないかぎり接見を拒否する(監獄の長が拒否することになるのは検察官の指示に由来する)ということは、本来自由接見できる弁護人となろうとする者に対し、接見に関する一般的指定をしたと同じ効果をつくりだし、接見するためには、勾留場所からわざわざ検察庁まで出向いて具体的指定書を受取ること、この指定書を再び勾留場所に持参することを必要的に履践させるものであるから、単に接見の指定は具体的指定書によつて行う旨手続運用面の指示をしたもので刑訴法三九条三項の処分はないということはできず、東京地方検察庁で検察官の接見指定書を受取りこれを持参しないかぎり申立人と被疑者の接見を拒否する旨の刑訴法三九条三項の処分に含まれる一つの処分というべきであつて、かつ違法な処分であるからこれを取消すべきである。

2、四月一四日夕刻および一五日の電話ならびに一五日の対面による八巻検事と申立人の対話経過は、一四日大井警察署に赴いた申立人に対してなした前記処分についての説明と抗議のやりとりというのが相当で、新しい別の接見拒否処分があったとは認められないから四月一四日夕刻電話でした処分および同月一五日の処分として取消すべきものはないと考える。なお、対面しているとき、接見の求めに対し、直ちに具体的指定書をさしあげるから持参されたいというばあいは、申立人らに特に不利益を科することなくして手続の明確性にも有用なものであるから、指定書を受取り持参して接見するよう協力すべきものであろう。

3  申立の趣旨第二項については、検事の処分を取消したうえ必要により更になすべき裁判に該当しないと考えられるのみならず、弁護人となろうとする者と被疑者の接見は本来自由であるが、捜査のための必要性は捜査機関の裁量判断によるのが原則であり、本件について今後捜査のための必要性が全く存在しないこと明らかであるとはいえないので、八巻検事は申立人と被疑者の接見を拒否してはならないとの申立はその理由がない。また、主文第一項に記載したような理由すなわち指定書を持参しないゆえをもつて接見を拒否してはならないなどということは、違法な処分を取消したうえ、検事に対して違法なことをするなとくりかえしをいうようなもので、準抗告の裁判における必要により更になすべき裁判に該当しないと考えられる。

4  よつて本件申立は、主文第一項の限度においてその理由があり、その余の申立はその理由がないから刑訴法四三二条、四二六条に従い主文のとおり決定する。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例